市場構造シリーズ 最終回
引退と再定義
相場を降りたのではない。
構造を受け入れた。
アルゴリズムが主役になった市場で、
私は少しずつ違和感を抱えるようになった。
技術の問題ではない。
判断力の衰えでもない。
何かが決定的に変わっていた。
市場は、もはや“人間の戦場”ではなかった。
人間は残っている。
だが、主導権は別の場所にある。
裁量が通用しないわけではない。
しかし、その優位性は明らかに圧縮されていた。
そして何より、
自分の内側の消耗が無視できなくなっていた。
勝てなくなったからではない。
追いつけなくなったからでもない。
構造が変わった。
その事実を、認めただけだった。
引退という言葉は派手だが、
実際はもっと静かなものだ。
ある日、
「ここまでだ」と自分で線を引いた。
それは敗北ではない。
時代の流れに逆らわないという選択だった。
数年の療養を経て、
私は再び金融と向き合うことになる。
相場の中心ではなく、
一歩引いた場所から。
金融はなくならない。
だが、理解なくして触れるものではない。
多くの人が、構造を知らずに参入し、
壊れていく姿を見てきた。
だからこそ、今の立場を選んだ。
増やすことよりも、
壊れないこと。
勝つ方法よりも、
構造を知ること。
私は相場を降りたのではない。
相場との距離を、再定義した。
引退とは終わりではなく、
立ち位置の変更だった。